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軒先で雨宿りしていると、玄関から女性の声。短い不倫の話。

現代ではおよそ考えられないことですが、私がまだ若い頃、雨にふられてよその家の軒先で雨宿りをしていると、玄関があいて「そんなところでは濡れますから、どうぞ中へ」と親切な声がかかりました。

見れば私よりは少し上の、しかしまだまだ若い婦人です。家の中はしんとして、ほかには人の気配はありません。

「どうぞおあがりください」と彼女は私を座敷に招きました。私も若かったので、遠慮なく家にあがらせてもらいました。

そこはテレビのある和室で、冬場はこたつにさまがわりするテープルと、座椅子が二脚おいてあり、私はその一脚に腰をおろしました。彼女はいままでみていたらしいテレビを消すと、ポットの湯を急須に注ぎ、私にお茶をいれてくれました。

「すごい雨ですわね」
「おかげで助かりました」
「玄関の曇りガラスにあなたの影が映っていて、ほっておけなくなったのです」

優しい心根の女性だなと、私は素直に感謝を顔にうかべました。わりと上背があり、しっかりした体格で、胸はもりあがり、張り出した腰に、お尻は少し垂れ下がっていました。女性経験などそんなにない私でも、彼女が既婚者であることだけはわかりました。

壁に、船の上から手をふる船員姿の男性の写真が額入りで吊るしてありました。私がじっと見ていると、「夫です。遠洋漁業にでかけてあとひと月、帰ってこないのよ」と、聞きもしないのに彼女はそんなことを教えてくれました。

しかしそれを聞いて私も、安堵したのは事実です。いくら雨宿りとはいえ、女性が一人でいる部屋にあがりこんで一緒にいるところを、いきなり帰ってきた主人に見られるのは言い気持ちではありません。

「ゆっくりしてね」彼女の言葉遣いがわずかな間にずいぶん打ち解けてきた感じがしました。

そして、こんなことも言いだしのです。「よかったら、お風呂で冷えた体を温めたらどう」
「とんでもありません。ぼちぼち雨も弱まってきたようですので、僕はこれで―――」

立ちあがりかけると、彼女も立ってきて、私に体をすりよせるようにしながら、「もっといてよ」と、どこか甘えたような口調で言うのでした。

私はだんだん、この女性のことがわからなくなってきました。いや、いまなら、彼女が私に対して浮気心をもよおしているのだぐらいはわかります。

ただ当時の私にはそこまで勘繰るだけの経験もなく、なんだかぼぉっとなってしまって、いつのまか気がついたら彼女とキスを交していました。

彼女はものすごく積極的で、恥も外聞もないといったふうに、激しく私を求めてきました。

私と彼女の、道ならぬ恋のそれがはじまりでした。聞こえはいいですが、結局は欲求不満に陥った人妻の相手に、若いだけに体力も精力もありあまっている私が選ばれたというだけの話で、私もまたそれをいいことに熟れた女性の肉体にすっかり溺れこみ、最初は一週間に一度だったのがそのうち毎日のように彼女の家に通うようになりました。

それも、彼女の主人が遠洋漁業から帰ってくるまでの話で、ある日彼女はすげない調子で、もうこないでと私に言ったのでした。

正直私はほっとする反面、やっぱり未練がないといえば嘘になります。後日、矢も楯もたまらなくなった私が、彼女の玄関前に近づいた時、いきなり中から腕組みをしながら彼女が夫とあらわれました。その逞しく日焼けした筋骨隆々の男性をひと目みるなり、たちまち私はすごすごと引き返していったのでした。